子どもデザイン教室ブログ

東京オリンピックの類似問題

takorockな毎日 | 2015.08.07(金) | No Comments

一応デザイナーだし、デザインの講師もしているので、東京オリンピックのエンブレムの類似問題について(ちょっと恥ずかしいのですが)雑文を書いてみました。

●説明することの難しさ
東京オリンピックのエンブレムの類似問題。説明することの重要性を人ごとではないと思った。会見で「一般の人が見て似ていると感じるものは、オリジナルではないのでは?」の質問に、作者の佐野研二郎氏は「似てない、残念、問題ない、寂しい」と答えた。
しかし、誰にでも分かるように「そもそも似てるとは何か?オリジナルとは何か?デザインとは何か?」まずそういう部分をきちんと説明してほしかった。その上で2つのマークが「なぜ似てないと言えるのか」を細部にわたって説明してほしかった。
そうでないと「でも同じように見えるんだからオリジナルじゃないよね」となる。世の中に似てるように見えるマークは星の数ほどある。しかし、独自性をもつマークもまたいくつもある。私はこの2つのマークは似てないと考えている。似てる=同じに見えたりはしない。

●一見、安易に作れるシンプルなマーク
最初、このエンブレムを見たとき、あまりのシンプルさに意表を突かれた。それは、そのシンプルさがエンブレムとして相応しくなく思えたからだ。普通ならもっと画数の多い、複雑なデザインにする。なぜならその方が独自性が出しやすいからだ。
今回のエンブレムをみると、右下に右下向きの矢先のような意匠がある。私は最初なぜTとLなんだろう?オリンピックのL?隠れO?と思った。会見で聞くと、亀倉雄策氏の1964年のオリンピックエンブレムへのオマージュという。説明されて初めて分かった。
学生に「TとLを組み合わせて何かマークをデザインして」と課題をだせば、恐らく誰かはこのベルギーの美術館のようなマークにするだろう。シンプルなマークは一見、安易にデザインできるのである。
そもそもオリンピックのエンブレムをデザインするほどの人が、ネットや本を見て「なんかいいアイデアないかな〜」などと考えたりはしない。そこらへんのデザイナーがそこらへんのマークをデザインするのとは訳が違う。
私程度のデザイナーでも独自性には気を遣う。あとあと面倒を抱え込むのは厄介だし、デザイナーとは進化好きな生きものなのだ。昔、制作中のマークと偶然似たマークがあることを知って、制作中に大慌てで作り直した経験がある。

●シンプルなマークは似て見える
そもそもマークはシンプルにすればするほど似て見える。例えば1画で描ける「丸」だけのデザインの場合、独自性は出しにくい。その点、今回のオリンピックエンブレムは、数えると4画で描ける。しかも、折れ角は6箇所と極めてシンプルな構成である。
これほどシンプルなマークはそれだけリスクを孕む。どうしても何かと似て見える。そのことはデザイナーなら誰でも知っている。しかし、佐野氏はあえてそこに挑んだ。ここは一流と雑魚の違いである。
しかし、この危険性を回避するには国際商標調査で調べることである。今回も国際商標調査で先行意匠がなかったから採用されている。何の落ち度もない。ただし、意匠登録されていないマークまで調べることはできない。
ベルギーの美術館に言いたいことがある。それは「意匠登録もしていないのにガタガタいうな」と言うことだ。ちなみに、うちみたいな雑草NPOでも、子どもたちが作ったキャラクターをビジネスに使う場合はきちんと意匠登録している。
しかも先行意匠と類似しないように独自性への配慮も欠かさない。著作権というけれど、佐野氏のデザインにも著作権はある。もし、盗作というのなら「見たはずだ」ではなく、佐野氏がそのマークを事前に見たという事実を立証しなければならない。

●佐野氏の狙い
これほどシンプルなデザインは必ず類似したマークは存在する。そのことは佐野氏も当然分かっていたはずだ。しかし、佐野氏はなぜまた、そういう危険性を知っているのに、このシンプルなデザインにしたのだろう?
ここからは私の想像だ。一つ目に、佐野氏は一見誰にでもできるようなデザインで、絶対誰にもできないデザインをめざしたのではないだろうか。デザインはシンプルにすればするほど、その美的成立が困難になる。先に書いたように、デザインは複雑にするとごまかしが効く。シンプルさの追求や憧れはデザイナーの生物的な本能だ。
二つ目に、佐野氏の挑戦はムービングロゴともいうべき、組み合わて展開することのできる新しいマークのあり方を提唱した。展開させるためには、その核としてのエンブレムはシンプルでないと成立が困難になる。つまりシンプルにせざるを得ない。
三つ目に、グラフィックデザイン界の開祖、亀倉雄策氏への思いだ。最初、私には田中一光氏へのオマージュに見えた(1981/Nihon Buyo)。逆に言えば、亀倉雄策氏の虜、日本=簡素、日本の伝統色といった保守的なコンセプト内に納まっている。
オリンピックの歴史、人類の歴史、これからの世紀を展望する視野に立てば、50年前の亀倉氏のデザインに固守した点は意見の分かれるところだ。もっと遠くの視点に立てば、まったく違うデザインにはなっていた。

●私の結論
この点で今回にエンブレムは「美しい日本を取りもどそう」というコンセプトが二重写しにみえる。あの高度成長時代よもう一度、ReBORNである。私は今回のデザインは「極めて先進的な意匠と、極めて懐古的なコンセプトを併せ持つエンブレム」と捉える。
それはいい悪いの話ではない。エンブレムはお披露目して終わりではない。使って初めて真価が問われる。使い手がうまく使いこなせば、このエンブレムもその大会運営上の機能を存分に果たすものと考える。
このようにマークとは、表層の一部意匠だけをみて判断されるものではない。その意匠に内包された思考と機能が重要だ。そうした点でベルギーの美術館のマークと東京オリンピックのエンブレムはTとLの部分においてだけ似ては見えるが、まったく異なるものである。

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